『カモメに飛ぶことを教えた猫』 ルイス・セプルベダ (河野万里子=訳)
ブログのタイトルをうちの猫の名前から採ったので,手始めに猫の話を取り上げよう。
大丈夫まさにかくの如くなるべし,彼の名はゾルバ
港町ハンブルグに住む黒猫のゾルバは瀕死のカモメから卵を託され,3つの約束をした。
i 卵を食べない
ii ひながうまれるまで,卵を守る
iii 生まれたひなに,飛ぶことを教える
なんとも難しそうな条項がみえる。
この話は,主人公のゾルバ(超かっこいい)が,この3つの約束をどうやって果たしたか?を辿る成長物語だ。
カモメのひなの成長とともに,登場時既に一人前の猫であったゾルバも多くの経験を重ね,古今東西の猫の物語の中でも屈指の魅力的な黒猫に成長していくのが読んでいてとても楽しく,幾度も再読してきた。
「この大空すべてが,きみのものだ」
このお話のもう一方の主人公は,カモメのひな鳥フォルトゥナータ。 幸運な者,という意味の名だが,生まれながらに母と死別していたこのひなに幸よあれ,という祈りの込められた切ない名前でもある。
このキャラクターの造形には作者の人生における,アイデンティティーの喪失と回復の経験が投影されているのではないだろうか,と思っている。
そうやって見てみると,飛ぶとはどういうことなのか,カモメとはどういう存在なのか,などなど興味深い。
もちろん,そうした変な読み方をしないでも,周囲の思いやりとあたたかさによってすくすくと育つフォルトゥナータはとても愛らしく,読者はきっとカモメが好きになるだろう。
お互いを理解すること
寓話的な話の例によって,いくつかの場面で登場人物が語る内容は作者の思想の代弁となっている。
といっても誤解のないようにしたいのだけれど,説教臭がするというわけではない。ただちょっと語りが入るようなものだ。
作中で最もこの類の思いが溢れていて,なおかつ胸を打つ言葉は,ゾルバがフォルトゥナータに語りかける場面。
きみのおかげでぼくたちは,自分とは違っている者を認め,尊重し,愛することを,知ったんだ。自分と似た者を認めたり愛したりすることは簡単だけれど,違っている者の場合は,とてもむずかしい。でもきみと一緒に過ごすうちに,ぼくたちにはそれが,できるようになった。
(ここだけ取り出すとちょっとくどいかもしれない……)
まとめ
猫が好きな人,ハードボイルドなキャラと子供のバディものが好きな人,成長物語の好きな人などにぜひとも読んでほしい物語。 そんなに長くないし,気軽な読書にもおすすめ。
- 作者: ルイス・セプルベダ,河野万里子
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2005/11/15
- メディア: 新書
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